宮代椿木

Miyashiro Tsubaki

更新:2025.12.13 リニューアル


同人帖

自作同人帖


表紙絵担当帖


夢想唄

イメージソング
















絵録


文録


【檻ニ囚ワレタ調教師】「珠紀ちゃん!おはよ」コン、コン、ココン、コンと誰もが続きを歌いたくなるようなノックで珠紀の私室に入り込んできた女は、鼻歌混じりに珠紀に近づき思いっきりダイブをかます。
しかし珠紀はこれを華麗に躱し再び眠りの姿勢につく。珠紀は時間ギリギリまで寝る性質《タチ》なのだ。
「ね〜起きて起きて珠紀ちゃん!今日はお休みって聞いたよ。次のお休みはデートしてくれるって言ったじゃん!」言ってないのである。そうこの女、人の話を都合のいいように解釈をし朝から貴重な濤に所属する珠紀の休みを妨害しているのだ。*「アタシ休みじゃないし、そんなこと言ってない。てかなんでアンタが漣の邸宅《ウチ》にいるわけ?」
「だって今日はお父さまたちの商談だよ。だから珠紀ちゃん、今日はお休みだって京羅パパが言ってたよ」
なるほど。これでアタシの今の状況が理解できた。
アタシは元々パパとこのコの父──────楽座市のお得意様であり商品の仕入れ先でもある一家──────の商談に同席する予定だった。しかし今回、あの父親は娘の我儘を振り切れず漣への同行を認めてしまったのだろう。娘はなにかと悪漢から魅入られやすい。歳の近い女同士。この環境においては貴重でアタシら2人だけだ。だからかなこのコに懐かれたアタシは昔から彼女の護衛だ。つまりだ。あの言葉はパパからアタシに向けたメッセージな訳だ。かくしてアタシの今日の仕事は彼女に付き合い、彼女守ることとなったのである。
「あーそうだったね今日は休みなんだった」
「……!じゃあ」
「うん。デートね」
その言葉に彼女は、クリスマスに枕元のプレゼントを見とめた子供のように喜びの声をあげた。「でもアンタさ、昨日眠れてないでしょ」大方今日が楽しみで眠れていないのであろう。本当に子供のようだ。なぜバレた!?とかわいらしく頭を抱える彼女の目元にスッと指を滑らす。彼女のものとは違う戦い慣れた手だ。こんな動作ひとつで、思考も身体も止まってしまうなんて愚かな女。目の前で硬直した彼女とそれを引き起こしたアタシ。俯瞰的に。まるで恋愛映画でも観ているかのような気持ちになった。人心掌握に長けすぎた弊害だ。あー、だのうー、だの言葉にならない呻き声で羞恥心を誤魔化している彼女を引っ張り、まだ自身の温もりが残るベッドへと戻る。「たっ、珠紀ちゃん!??どどどどうしたの?」
「二度寝しよ。2人で。そんで起きたらさ、アンタが行きたがってたブティックとカフェに行こう」
「う、ん。ふふ嬉しい」
アタシに抱き枕のように包まれている彼女は、頬を染めてはにかんだ。それを見てアタシは意識を遮るように目を瞑る。
邸宅《ここ》は安全だ。彼女のおかげで得た午前休で存分に身体を休めよう。零距離になって漸くわかる彼女由来の甘い香りと控えめな柔軟剤。アタシはこれがどうしようもなく心地よいのだ。この気持ちはきっといずれ邪魔になるものだ。だからアタシはこれがなんなのか知らないふりをする。

【朱ク散ル僕ノ蒼】シンデレラの魔法が解ける頃。
僕ははじめて自らの手で肉塊を生み出した。
視界は鮮烈な赤に染まり、性行為にも似た高揚感に包まれる。
拳に伝わる骨が砕ける振動。耳朶を舐るような赤が飛び散る音。つい先刻まで、僕と同じように血を通わせ、心の臓を脈打ってたそれが今はもうただのタンパク質だ。
「──────り」
「おい新入り!」
肩を揺さぶられ、僕を魅了した赤い魔法はようやく解かれた。
基地内での許可のない玄力を感知したのであろう。妖術戦略陸軍の精鋭たちが僕を囲んでいた。
そうだ。僕は基地で夜の番をしていたんだ。
「っ!」僕の下にいる上官だったソレをみて狼狽えたのはソレと同期だった男だ。
遅れてやってきた妙齢の女医は、その男の肩に手を置きながら、僕をまっすぐに見た。
「キミがやったのかい?薊奏士郎くん」
「はい。守山中佐は僕と同じく東門の夜の番でした。しかし中佐は間者を引き入れたため、すべて僕が殺しました」
「そうかい。薊くんは取り敢えず医務室へ。詳しい聴取は明日以降に」
のちに聞いた話だと、この時の僕は鬼のようであったとか。四方に散らばる死体に肉片。
その中心で笑いながらもう動かない元上官を殴り続けていたそうだ。
その様子を見ていた精鋭部隊の一人は僕を医務室まで送ると言って聞かなかった。
僕自身大した怪我はない故一人で行けると押し問答の末、女医の鶴の一声がかかった。
「お〜、派手にやったね」現場とは打って変わっていやに明るい声を拾った。興奮冷めやらぬまま、歩き続けていたがいつの間にか医務室まで到着していたらしい。アタシ当直なんだ〜と背を丸め僕の顔を覗き込んでくる女。今は会いたくなかったな。「無視ですかぁ。こんなにかわいい幼馴染が美容の大敵である当直をしているというのに?」
「今は会いたくなかったなって考えてただけ」
「?なんで。奏ちゃんが暴力男なことは知ってるよ何年の付き合いだと思ってるの!」
ぶーぶーと文句を垂れる彼女は“会いたくなかった“がもう記憶にないのか一方的に喋りながら僕の手を引いて医務室の扉を閉めた。「先生いまどっか飛んでっちゃったからアタシしかいないの。でも奏ちゃん怪我してないよね?まあいいや脱いで」事の顛末を知ってるのか知らないのか、彼女は呑気に僕を見つめる。
キュートアグレッションなんて可愛い言葉では片付けられないほどの、衝動。赤だ。
彼女の汚れひとつない手入れされた白衣をこの赤で汚してみたい。天使を堕としてみたい。
そんな赤い魔法に魅了されたまま、僕は彼女をかき抱いた。強く、強く。
僕から彼女へ。じんわり白衣に染み込んでいく返り血。この感情の名前はなんだろう。鍛え抜かれた成人男性に飛びかかられた彼女はよろめき、手をついた。ガシャンと医療器具が散乱する音は、僕には聞こえなかった。
彼女の身体が軋みをあげる。常人よりも力が強く、赤に魅入られた男に抱きしめられているのだ。
「えい」
「ぁ」
彼女は僕の背中にナイフを突き立てた。「も〜痛い!何回も言ってるのに奏ちゃん全然聞いてくれないんだもん!刺しちゃったごめんね」
「さすが、僕のお嫁さんだね」
「まだお嫁さんにしてもらった覚えはないよ〜だ」
誰が裏切っていても彼女だけは僕のものであってほしい。純白のまま。「ふふ、アタシのことそんな強く抱きしめちゃうくらい好きなんだ」
「うるさい」
「あのね、」
アタシも大好きだよ。耳に寄せられたぷるりと輝きをもった唇はそう紡いだ。これは白い魔法だ。